香港、九龍城寨跡で映画セット展を開設 作品世界を3年間公開
九龍寨城公園で映画「九龍城寨之圍城」のセット展が開幕。8つの空間と映像演出を無料公開する。
香港の文化体育・旅遊局の文化創意産業発展処(CCIDA)は2025年5月23日、九龍寨城公園で映画セット展「Kowloon Walled City: A Cinematic Journey」の開幕式を開いた。対象は2024年公開の映画「Twilight of the Warriors: Walled In(九龍城寨之圍城)」で用いられた世界観を再構成した展示で、同作の美術チームが再制作に参加した。翌5月24日から一般公開を始め、会期は2028年5月23日までの3年間、入場無料である。
映画は第43回香港電影金像奨で最優秀作品賞を受賞した。政府はその映画の認知を足がかりに、香港映画の美術・工芸を体験できる観光文化施設として展示を打ち出した。
会場は、かつて九龍城寨があった場所に整備された九龍寨城公園内の衙門(Yamen)。政府発表によると、映画セットは城寨の旧址で再構築され、来場者が内部を巡る展示として公開された。主催はCCIDA、資金面は映画発展基金が支える。開幕式には政務司副司長の卓永興、財政司副司長の黄偉綸、文化体育・旅遊局長の羅淑佩のほか、観光・映画産業の関係者が出席した。政府は、九龍城の他の観光資源と組み合わせ、地元、香港域外、海外からの来訪と地域消費につなげる方針を示した。
八つの場面で組み立てる城寨の日常
公式展示ガイドは、入口の花牌と城寨街坊会、食料品店/跌打館、魚蛋工場、歯科診療所、光と影の屋上、細い路地、理髪店、「七記飯店」の計8室を案内している。食や施術、商いの場を並べることで、映画のアクション場面だけでなく、城寨で営まれた日常の密度を空間として見せる構成だ。各室は映画の「実物セット」そのものを保存したと一律には説明されておらず、政府発表は映画のセットを再構築したものとしている。
地域の伝統工芸の要素に加え、大型投影を組み込んだ点も特徴である。投影では、低空を飛ぶ航空機の映像と音を体験できる。展示は、香港国際空港と啓徳で先行した関連展示を受け継ぐ企画で、政府は今回を同種の展示では最大かつ最長としている。
無料公開を成立させる入場設計
現行の公園案内では、展示は毎日9時から19時まで開室する。ただし会場内は同時に60人まで、1時間に15分間の鑑賞枠を3回設ける運用である。混雑時には当日券を配布し、9時から14時前の枠は8時45分、14時から19時の枠は13時45分から衙門前の案内カウンターで受け取る。1人が一度に受け取れるのは2枚までで、券面時刻を過ぎると入場枠は失効する。無料で開く一方、回遊と滞留を時間枠で管理する設計だ。
九龍寨城公園では、城寨の歴史、出土遺物、中国式庭園の設計を扱う無料ガイドツアーも別途実施している。通常の来園者向け回は約30分、定員の目安は30人で、平日・休日とも複数回設定される。開幕後の2025年8月18日には10万人目の来場者を迎えたと香港政府が発表した。会期中は、黒色暴雨警報または台風シグナル8以上の発令時に展示を一時閉鎖し、警報解除後は条件が整えば2時間以内に再開すると公園案内は定めている。
編集部の見方:映画IPを地域回遊へ変える条件
この企画の事業上の価値は、映画のファンを一度展示室へ呼ぶことではなく、限られた入場枠の後に九龍城の飲食、史跡、街歩きへ行動を広げられるかにある。60人・15分という回転設計は体験の密度を守る反面、待機時間と周辺消費をどう設計するかで成果が変わる。セットの鮮度が落ちた後も、地域史のガイドや制作資料との接続を明確にできれば、映画のヒットに依存しない来訪動機を育てられる。悪天候時の閉鎖や再開の周知も含め、会期3年の運営品質が地域への送客を左右する。