良渚古城遺跡公園、800㎡超を歩く「神紋之約」VRを試験運用
良渚古城を題材にした大空間VR「神紋之約」。開始時に公表された800㎡超・35分の体験内容と、その後に確認された運用仕様を追った。
2025年7月5日、浙江省杭州市の良渚古城遺跡公園で、大空間VR「良渚VR大空間・神紋之約」が一般向けに始動した。良渚古城を題材に、来場者が実際に歩く会場とVR映像を組み合わせる全感覚型のインタラクティブ体験である。開始時の杭州市公式広報の発表では、インタラクティブ空間は800平方メートル超、所要時間は35分とされた。良渚古城遺跡公園と天邁文化科技が共同で制作した。
「時間旅行者」として古城の変遷をたどる
参加者は「時間旅行者」という設定で、仮想の研究施設から約5,000年前の良渚へ移る。2人の博士の案内と良渚の神徽を手掛かりに、二代の王の時代をまたぎながら、古城の変遷、祭祀、洪水という危機を体験する構成だ。竹筏で水辺の暮らしを進み、神鳥とともに上空から三重の城郭を見渡す場面、稲作や玉器・石器・漆木器の工房を扱う場面も公表されている。
こうした内容は、土の城壁や地形として残る遺跡だけからは把握しにくい、水利、居住、儀礼、手工業を空間的に示すためのものだ。制作側は、考古チームの実地調査データと研究成果を基に、3Dガウス再構成、動的レンダリング、空間定位、動作捕捉、多人同時インタラクションなどを用いたとしている。高精細モデルは「上億面」と説明され、三重の古城配置から河道沿いの家屋、衣服、室内の設えまでをデジタルで再現する。
良渚遺址管理委員会は後に、この取り組みを遺跡本体の保護、学術的価値の伝達、文化観光の融合を目標に据えたものと説明した。重要なのは、VR映像が考古資料そのものではなく、調査成果を基に構成したデジタル表現だという点である。来場者がどの場面を史実・遺構の解説として受け取り、どの場面を理解を補う演出として体験するのかを分けて示すことが、文化遺産での運用には求められる。
南城壁の見学と接続する施設構成
会場は南城壁エリアに近い。良渚博物院が公表した「文化+科技」研学ツアーでは、南城壁遺跡の見学後にVR大空間へ向かう行程が示された。南城壁は、古城の城壁断面を公開している地点であり、現地では「草裹泥」と呼ばれる工法などを学べる。VRの復元映像を単独の娯楽として終わらせず、実物の遺構、博物館、AR体験とつなぐ設計が組まれていた。
VRの周辺には、文化打刻スポット、手作り体験、文創ショップ、休憩・待機エリアも設けられた。開始期間には「王の飾り」の手作り体験やIPキャラクターの短時間パフォーマンスも案内されており、ヘッドセットを外した後も現地で良渚文化に触れる運用だった。試験営業の7月5日から13日には、1日30枚の無料券を配布したとの当時報道もある。ただし、通常時の料金、端末数、予約枠は開始時の公式発表では確認できない。
後日の公式資料が示す運用上の数値
開始時に発表された「800平方メートル超・35分」はローンチ時の仕様である。一方、良渚遺址管理委員会の2026年の公式資料は、2025年7月6日の試験運用開始、1回40人の同時体験、体験時間25分という数値を掲載している。公開時点や運用段階によって表記が異なるため、本記事では35分を開始時の発表値、25分・40人を後日公表された試験運用の仕様として区別する。料金や現在の営業条件は、各公式窓口での確認が必要だ。
編集部の見方:保護区域で成立する大空間VRの条件
遺跡公園のVRは、派手な再現映像だけでは継続事業になりにくい。良渚のように脆弱な土遺跡を抱える場所では、核心部の混雑をどう抑え、現地で見られる事実とデジタル復元の仮説をどう分けて伝えるかが運営の評価軸になる。南城壁の実見学、博物館、VRを連続させた今回の導線は、その役割分担をつくる試みだ。今後は、学術監修の更新履歴、体験枠の稼働率、来場者が実物見学へ移る割合に加え、復元表現をどこまで根拠とともに示せるかが重要になる。