レオポルド美術館がエゴン・シーレ対話型VR、1918年のウィーンを一人称で体験
レオポルド美術館で公開された対話型VRの内容、上映運用、同時期のシーレ展との接点を公式情報から追いました。
ウィーンのレオポルド美術館は2025年4月3日、対話型VR作品「Egon Schiele – A Personal Encounter」を公開した。前日の4月2日には、美術館長ハンス=ペーター・ヴィップリンガーと、監督・プロデューサーのゲルダ・レオポルドが世界初公開の催しを開いた。制作はウィーンを拠点とするAMILUX FILM。同社にとって初のインタラクティブVRで、数年をかけて完成させた作品だという。
舞台は第一次世界大戦終結直前、疫病と飢えに覆われた1918年10月末のウィーン。参加者はシーレのアトリエに入り、発熱で朦朧とした画家と対面する。俳優Lukas Watzlが演じるシーレは、来場者の肖像を描きながら話しかける。ここから回想場面へ移り、画家の人生における重要な出来事と「ウィーン1900」の世界をたどる構成となっている。
来場者の返答で展開が変わる約30〜35分
本作は映像を一方的に鑑賞する形式ではない。シーレが物語を語り、質問を投げかけ、来場者の返答がその後の筋立てに影響する。美術館の発表は体験時間を「約30分」、AMILUX FILMの作品ページは「1回35分」と記載しており、いずれも短時間の展示鑑賞に組み込むことを想定した尺であることが分かる。出演者にはWatzlのほか、Lilly Dreesen、Luise Aschenbrenner、Eric Brouwer、Aaron Hilmerらが名を連ねる。監督・脚本はゲルダ・レオポルドが担った。
当初の上映は地下1階オーディトリアムで、ドイツ語版と英語版を用意。美術館の公式案内では有効な入館券または年間パスで無料、チケット窓口のみで予約を受け付け、各回は最大15人、対象年齢は14歳以上とされた。開始時刻は11時、12時、14時、15時、16時。公開時のプレス発表では火曜・金曜を除く毎日、アーカイブの企画ページでは火曜を除く毎日と案内されているため、運用は会期中に更新された可能性がある。企画ページは当初2週間の上映を告知し、その後、好評により4月28日まで延長したと記録している。
シーレ最晩年を扱う展覧会と同時期に公開
VR公開時、美術館では「Changing Times. Egon Schiele’s Last Years: 1914–1918」展も開催されていた。同館はシーレ作品を約300点、うち絵画48点所蔵し、同展は1914年から1918年の後期作品を中心に扱った。VRが設定する1918年10月は、シーレと、妊娠6カ月だった妻エディトがスペイン風邪で数日のうちに亡くなった時期と重なる。展覧会はその晩年を作品と資料で扱い、VRは俳優との会話と回想を通じて同じ時代へ入る入口をつくった。
史実を素材にした体験である一方、発熱の夜の会話や来場者への問いかけはドラマとして構成された要素だ。美術館はVRを作品世界に近づく機会として提示しており、史実の解説や実作品の鑑賞を代替するものとは説明していない。上映終了後も、同館のアーカイブページとAMILUX FILMの作品ページで、体験の概要、予告編、主要クレジットを確認できる。
編集部の見方:対話性を展示導線へどう接続するか
この事例の要点は、著名画家の人生をVR化したことだけではない。15人単位、約30〜35分、窓口予約という運用により、没入体験を大規模展示の回遊に載せようとした点にある。会話によって展開が変わる作品は、来場者が何を見落としたか、どの作品へ関心を持ったかを展示後の鑑賞につなげられる。一方で、演技として再構成した場面と資料で裏づけられる事項の境界を明示し続けなければ、強い没入感が学芸的な説明を上回ってしまう。体験の出口に関連作品、年表、根拠資料を置けるかが、文化施設における持続的な価値を左右する。