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ニュース2026年9月13日

Venice Immersive 2026受賞作発表、『The Pigeon Ring』が最高賞

第83回ベネチア国際映画祭のXR部門で『The Pigeon Ring』が最高賞を受賞。受賞した3作品の内容を紹介します。

REVIEWED
The Pigeon Ringで再現された古い家の室内と家族の記憶
画像:La Biennale di Venezia公式作品ページより(報道引用)

第83回ベネチア国際映画祭は2026年9月12日、XR部門「Venice Immersive」の受賞作を発表した。最高賞のGrand Prizeには、中国のYuqi ZhangとShixin Taoが監督したVR作品『The Pigeon Ring』が選ばれた。

審査員特別賞は、2025年のロサンゼルス山火事を記録した『Out of the Ashes』。Achievement Prizeは、海上の石油掘削施設を舞台にしたMRドラマ『Empire at Sea』が受賞した。Paul Raphaëlを審査員長とする3人の審査員が、コンペティション30作品を審査した。

最高賞は、家族が暮らした家を歩く『The Pigeon Ring』

『The Pigeon Ring』は35分のVR作品だ。主人公のLynは、高齢になった祖父に付き添い、古い実家で行方不明の鳩の足環を探す。部屋を巡るうちに、鳩レースへ執着してきた祖父の過去と、家族に語られなかった記憶が見えてくる。

制作チームは、監督自身の家族が暮らした家をGaussian Splattingで再構築した。これは多数の写真や映像から立体空間を生成する技術で、参加者は再現された室内を自分のペースで歩ける。見る場所や次の部屋へ進むタイミングによって、記憶の断片に出合う順番も変わる。

作品はYuqi Zhangの幼少期と、成人後に家族への理解を深めた経験に基づく。祖父が鳩を訓練する姿と、孫を厳しく育てた態度を重ねながら、一人の性格として片づけられない時代背景を描いた。実在した生活空間を歩くことが、家族史を知る手がかりになっている。

『Out of the Ashes』は被災した家と持ち主の記憶を残す

Rory MitchellとNonny de la Peñaが共同監督した『Out of the Ashes』は、26分のVRドキュメンタリーである。2025年1月のロサンゼルス山火事で被災した住民を取材し、焼け跡に残った家財や住まいを立体的に記録した。

作品は七つの短編で構成される。手描きの赤い玄関扉、祖父から受け継いだ品、子ども部屋に残された物など、統計では伝わりにくい喪失を住民の声とともにたどる。支援団体Agogによると、制作にはボリュメトリックキャプチャー、フォトグラメトリ、Gaussian Splattingが使われた。撮影したのは、火災から数週間後の現場だった。

参加者は、記録された被災地の中に立つ。実際の場所に残された物と住民の声を重ね、そこで営まれていた生活を伝える構成だ。

『Empire at Sea』は俳優をMR空間へ配置

Peter Flaherty監督の『Empire at Sea』は、22分のインタラクティブなMRドラマだ。気候科学者たちが沖合の石油掘削施設へ移り、持続可能な海上都市をつくろうとする。大地震で本土との連絡が途絶えた後、研究者たちは施設内で生き延びる方法を探す。

出演はOrlando Jones、Ayelet Zurer、Geoffrey Arend、Beth Grantら。俳優の演技を立体映像として空間に配置し、参加者の目の前で物語を進める。作中には昆虫由来のたんぱく質、水の再利用、洋上再生可能エネルギーといった技術も登場する。Lincoln Centerが委嘱し、Flaherty Pictures、4DV.ai、NightLight Labsが制作した。

3作品とも、現実の場所や人物をXRへ持ち込んだ

2026年の受賞作は題材も形式も異なる。『The Pigeon Ring』は実在した家、『Out of the Ashes』は火災後の街、『Empire at Sea』は俳優の演技を立体的に取り込んだ。共通するのは、現実にある場所や人物をXR空間の中心に置いた点だ。

三作はいずれも、会場に設備を組んで見せるインスタレーションとして選出された。作品を別の施設へ展開するには、必要面積、機材、スタッフ、参加者の移動範囲を整える必要がある。今回の受賞だけで商業施設への導入が決まったわけではない。映画祭で評価された表現が巡回展や常設XRへ進むか、今後も追いたい。

Venice Immersiveは2026年に10周年を迎え、26カ国から68作品を選出した。全68作品の制作会社・制作者と内容は別の記事にまとめた。コンペティション外を含む部門全体の構成と会場運営は、開幕時の記事で確認できる。