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テクノロジー2026年9月16日

博物館・美術館のXR活用事例|歴史・美術・科学をイマーシブで学んで楽しむ

オルセー美術館、ルーヴル美術館、ボストン科学館、東京国立博物館のXR活用を紹介。印象派の展覧会、絵画技法、生命史、文化財を体験する方法を比較します。

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VR作品「印象派画家と過ごす夜」で再現された展覧会の一場面
画像:CinemaLeap配布/「印象派画家と過ごす夜」の作品画像。© Excurio - GEDEON Experiences - Musée d’Orsay

1874年のパリで印象派の画家に会う。モナ・リザの描き方を間近に見る。恐竜が暮らした環境を自分の足で歩く。博物館・美術館のXR活用は、作品や標本の解説を、来場者がその場に入って楽しめる体験へ広げている。

この記事では、オルセー美術館、ルーヴル美術館、ボストン科学館、東京国立博物館に関わる四つの事例を紹介する。題材、体験方法、研究者や学芸員の関わりを比較しながら、歴史・美術・科学をどのように学べるかを見ていく。

博物館・美術館のXRは、何を体験できるのか

施設・取り組み 題材 体験方法 実施時期・展開
オルセー美術館/印象派画家と過ごす夜 1874年の第1回印象派展 会場を歩き、画家や作品に出会うVR 2024年に同館で初公開。日本などへ展開
ルーヴル美術館/Mona Lisa: Beyond the Glass モナ・リザの技法とモデル 約8分のVRで絵画の細部と制作背景を知る 2019〜2020年の展覧会で実施。家庭向け版も制作
ボストン科学館/Life Chronicles 地球の生命史 九つの古環境を巡る約30分の歩行型VR 2026年6月に導入、公式サイトで公開中と案内
東京国立博物館/TNM & TOPPAN ミュージアムシアター 絵画・工芸品・建築などの文化財 大型スクリーンと案内役によるVR鑑賞 2026年3月29日に運営終了

XRはVR・AR・MRなどを含む総称だ。ここではヘッドセットを装着するVRと、VRデータをスクリーンへ映して案内するシアターを扱う。施設での使われ方の基礎は「施設型XRとは」でも解説している。

オルセー美術館:第1回印象派展の会場へ入る

「Tonight with the Impressionists Paris 1874―印象派画家と過ごす夜―」は、オルセー美術館、Excurio、GEDEON Experiencesが共同制作した作品だ。2024年3月26日にオルセー美術館で初公開された。

舞台は1874年のパリ。写真家ナダールの旧スタジオで開かれた第1回印象派展を再現し、参加者はモネ、ルノワール、ドガ、モリゾらの作品を解説とともに巡る。壁に掛かった絵を見ながら、画家たちが同じ場所に集まった時代へ入っていく構成だ。

物語は展覧会場から、画家たちの制作の場所や交流へ広がる。どの絵が誰の作品かに加え、画家がどのような場所で制作し、互いにどう関わっていたかを、場面の移動を通してたどれる。CinemaLeapの作品紹介

日本では2025年7月にIMMERSIVE JOURNEY横浜で公開された。日本語版ではモネ役を梶裕貴、セザンヌ役を浪川大輔、ドガ役を子安武人が担当する。美術館が共同制作した作品を、各地の専用会場と言語で届ける展開だ。日本版の公式案内

VRヘッドセットを着けた参加者と月夜の水辺を組み合わせた公式体験イメージ
「印象派画家と過ごす夜」の体験イメージ。展覧会場から画家の制作に関わる場所へ、作品の中を移動する。 画像:CinemaLeap。© Excurio - GEDEON Experiences - Musée d’Orsay。公式配布資料

ルーヴル美術館:モナ・リザの表情と描き方を近くで知る

ルーヴル美術館は、2019年10月から2020年2月までのレオナルド・ダ・ヴィンチ展に合わせ、HTC VIVE Artsとの協力で「Mona Lisa: Beyond the Glass」を公開した。同館初のVR体験で、学芸員チームと連携して制作された。ルーヴル美術館の発表

約8分の作品では、現在の展示室から制作当時を想像した空間へ移り、モデルの衣装や髪形、レオナルドの絵画技法をたどる。輪郭を柔らかくぼかす「スフマート」の表現などを詳しく見せ、よく知られた肖像画を描き方から捉え直す。

美術館が蓄積した研究を、短い体験の中で絵の細部に結び付けている。家庭向けのVR版やスマートフォンでの体験も案内され、展覧会場で生まれたコンテンツが館外へ広がった。作品の内容と家庭向け展開

モナ・リザが展示された部屋と来場者を描いたVR作品の一場面
「Mona Lisa: Beyond the Glass」の作品画像。モナ・リザの展示室を起点に、絵画の細部や制作背景へ近づく。画像:Courtesy of Emissive and HTC VIVE Arts。VIVE Arts作品紹介

ボストン科学館:恐竜だけでなく、生物が暮らした環境を巡る

ボストン科学館が2026年6月に導入した「Life Chronicles」は、フランス国立自然史博物館とExcurioが共同制作した歩行型VRだ。同館版は約30分で、生命の起源から恐竜、人類の登場まで、九つの古環境を巡る。

案内役は若い研究者CharlieとロボットのDarwin。来場者はヘッドセットを装着して会場を歩き、絶滅した生物と、その生物が暮らした環境に出会う。年代の異なる景観を続けて体験することで、生物と地球環境の変化を一緒に追える。

制作には30人を超える古生物学、古植物学、進化、生物音響学の専門家が参加した。脚本から3D映像、音まで研究の知見が使われている。生物の姿に加え、背景の植物や音を含めて時代を描く事例だ。ボストン科学館の公式発表

森林の仮想空間を巡るLife Chroniclesの公式体験イメージ
「Life Chronicles」の体験イメージ。古代の生物と環境を、同行者と歩いて巡るVR作品だ。 画像:Museum of Science, Boston/公式発表資料。公式配布資料

東京国立博物館:文化財を拡大し、案内役と一緒に鑑賞する

東京国立博物館の東洋館地下1階で運営された「TNM & TOPPAN ミュージアムシアター」は、4K映像とナビゲーターによるライブ上演を組み合わせた。幅6.6メートル、高さ3.7メートルのスクリーンへ文化財を映し、案内役がVR映像を操作しながら鑑賞を進める方式だ。

作品には「洛中洛外図屏風 舟木本」や「江戸城の天守」などがある。高精細撮影、立体形状計測、色彩計測のデータを使い、細かな造形、通常と異なる角度、かつての色彩などを見せた。文化財の研究とデジタル記録が、鑑賞できる視点を増やしている。シアターの技術と作品紹介

同シアターは2026年3月29日に運営を終了した。公式案内では、蓄積したデジタルコンテンツなどを活用し、国内外へ日本美術の魅力を伝える取り組みを進めるとしている。運営終了の案内

VR作品「江戸城の天守」で細部まで再現された金色の鯱
「江戸城の天守」で再現された鯱。金具や鱗など、建築の細部を拡大して鑑賞できる。監修:東京国立博物館/制作:TOPPAN株式会社。公式配布資料

鑑賞したい対象によって、体験の作り方が変わる

絵画の描き方を伝えるなら、モナ・リザのように一作品を近くで見る構成がある。画家が集まった歴史的な出来事を伝えるなら、印象派展の会場そのものを再現できる。生命史では、生物と景観をまとめて描き、来場者が時代を移動する。文化財の細部は、大画面と案内役の説明で共有する方法もある。

施設で企画する際には、「どの資料を、どの視点から見せるか」を具体化したい。たとえば絵画の筆づかい、建物の内部、絶滅した生物の生息環境では、用意する資料も、来場者が見る距離も異なる。研究者・学芸員の監修と、映像・空間を作る企業の役割がそこでつながる。

制作会社や施設運営会社は「LBEの主要企業一覧」、国内で体験できる形式は「日本のLBE施設・事例一覧」で紹介している。

まとめ:画家の時代へ入り、絵の技法を見て、生命の歴史を歩く

オルセー美術館の作品は1874年の展覧会へ、ルーヴル美術館の作品はモナ・リザの制作背景へ来場者を案内する。Life Chroniclesは生物と環境の変化を歩いて体験させ、東京国立博物館のシアターは文化財の細部や過去の姿を大画面で見せた。

博物館・美術館のXRには、研究で分かったことを「近づく」「見回す」「歩く」といった体験で伝える面白さがある。絵や標本、建築への関心を起点に、制作の場や失われた環境までたどれることが、学びとイマーシブな楽しさを結び付けている。